映画感想:「サブスタンス」(2025年日本公開)

先日まで別ブログで映画感想を投稿していましたが、今回から試験的にこちらに統合していきたいと思います。

概要:

ジャンルとしては「ホラーSF」。主人公のエリザベスはかつてハリウッドで活躍した若い頃の自分を取り戻したく、「サブスタンス」というクローン技術に手を出します。が、この「サブスタンス」を誰がなんのために作っているのかは、わからないので、SFに分類するとちょっとリアリティに欠けますが、細胞分裂でクローンを作っているのは間違いないです。私の想像では、誰かが実験として適した人物にサブスタンスの勧誘をしているように感じました。夢のような技術を手に入れて人類が崩壊していく様はSFによくある筋書きです。

海外評価:

アカデミー賞(2025)ノミネートは、作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。ノミネートが多いだけあり、かなり高く評価されていることがわかります。

第一印象で感じたこと:

観終わった第一印象は、「とにかくグロい」ということです。グロ耐性がない方にはあまりお勧めできません。

なぜこんなにグロくしたのか?については私の考察ですが、「過去の栄光や若さに縋るのはあまりにも醜い」「そもそもルッキズムに迎合すること自体がグロい」と考えた監督の思いが、あのグロさにつながっているのではないか?と感じました。主人公は一人でサブスタンスプログラムを始めるので、実はセリフがあまりありません。その代わり、映像のグロさでいかに彼女がグロいことをしているかを表現しているように感じました。

女性のヌードは結構出てきますが、性的な表現はかなり少なめでした。どちらかというと、裸体を見せて「若さ」を比較させ、女性が裸体によって評価されている様を見せているように感じました。

テーマを掘り下げ:

この映画はテーマがわかりやすく、観る前からわかっていました。テーマはルッキズム、過去の栄光への執着、若さへの執着と、その愚かさです。

ちょっと気になるのは、「サブスタンス」のプログラムの内容です。

サブスタンスのプログラムでは「より若くより美しく、より完璧な自分の分身」が手に入りますが、一週間で交代しなければ、お互いの命を繋ぎ止めることができません。ここが引っ掛かりました。分身が大活躍し、カフェの男が言う通り「自分を食い潰していく」。そんな未来が見えていてもサブスタンスに手を出した理由はなんなのか。

「自分がマトリックス(母体)であり、分身は自分から生まれたもの」「だから分身が活躍するのを見て(顔は若い頃の自分なので)嬉しい」ということなのでしょうが、私は虚しく感じました。自分だったらやろうとは思わないですね…。

ただ、途中で「スー」が言っている通り、一週間分身が働いて、本体は遊んで暮らしている(大して遊べていないが)という生活を手に入れたいなら別です。

このプログラムだと、明らかに問題が生じそうな雰囲気が最初からあります。分身は本体に意思があるため、決して母体の言うことを聞きません。彼女らはルールに縛られているだけです。話の展開は予想がある程度つくので、少し歯応えがない感じはします。

しかし、私がこの映画を評価したいのは、心理描写です。

分身を手にいれる前から彼女自身に問題があった

エリザベスは冒頭で「50歳になったから」エアロビクスの番組を降りるようにと、クビを言い渡されます。しかしその年齢がなぜ理由になるのかをプロデューサーはきちんと言いません。

はっきり言わないけれどその理由がわかる彼女は、一人で苦しみます。この苦しみを分かち合える人がいないことに、まず問題を感じました。彼女のコンプレックスはかなり強く、大人気女優であったことからも、プライドが高すぎたのではないでしょうか?

また、それでも彼女の大ファンだと言う男性に冒頭で彼女は遭遇しますが、この男性に電話をかけるまでの時間がとても長い。誰も評価してくれないから、やっとの思いで、思い詰めながら電話を欠けますが、その後デートに漕ぎ着けるまでもものすごい葛藤を抱えて苦しみます。

これは大袈裟に描くことで、女性視聴者が「そこまで苦しまなくても」と思うように仕向けているのかなと感じました。実際、好意を持ってくれている人に会いにいくのにそこまで葛藤するのは相当プライドが高いと私も思います。

この映画は最終的にひどいことになるわけですが、全てエリザベスのエゴが招いたことであることは、結末を見ても明白です。

ただ、そこまでこの女優を追い詰めたものは、決してエリザベスのエゴだけではないと思っています。ハリウッドの界隈が、若くて美しい女性ばかりを持て囃す、その評価、ルッキズムに彼女自身が振り回されている。いわば業界全体が加害者。しかしそれは芸能界だけではありません。日常にも存分に潜んでいます。

監督は40代の女性です。これは彼女自身が映画業界に感じる問題を大袈裟に、コントラスト強めに描いた作品なのだと思います。

デザイン・ビジュアル面

「サブスタンス」と言うクローン作成プログラムは巧妙にできており、対面でキットが届くことはありません。宅配業者すらいません。電話番号や動画のデータを渡され、やりたくなったら電話をし、キットはロッカーで受け取るといった仕組み。キットは整然とパッキングされており、明確な指示書がついています。最近ではこういう商品が増えたなと思います。JBLのスピーカーを買った時、素晴らしい開封体験だなと思ったのですが、Apple製品も含めこういったパッケージングはカッコよくて良いデザインだなと思いました。また、全編に使用されているフォントも今回のために制作されたようです。(Impactと似ていますが)

ビジュアル面においては、クローンはデミ・ムーアの若い頃に似てなければいけないので、少しレトロな女優と、レトロな格好でのワークアウトダンスが使われていました。どちらかと言うと、私のような40代くらいの女性、デミ・ムーア全盛期に彼女に憧れた視聴者向けかもしれません。

サウンド演出は旋律のないEDMのような音がベースで、キャッチーでSFライクな雰囲気を醸し出していますが、序盤からなんとなく刺激の強い、怖い印象を受けるサウンドでした。

色彩設計はかなり鮮やかで、特に印象的なのはスタジオの(プロダクション本部の?)廊下です。こちらは「シャイニング」のオマージュを感じました。

サブスタンス公式サイト